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鷽の宿木

戦国無双シリーズ 真田幸村総愛され欲を書き散らすブログ。幸村を全方位から愛でたい。

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好きな子をいじめてるみたいに見える隆幸

「もうすぐ雨が降りますよ」
彼が知ることのできない外の様子を教えてやると、伏せていた顔をあげて久しぶりに目を合わせられた。
真っ直ぐ射ぬくような、というよりは磨いた鏡面のように、丁寧に相手の姿を映していた瞳が、今は石を投げいれられた湖面の如く揺らいでいる。そう見えるのは薄く張った涙の膜のせいだろう。
はっきりと哀切を訴えられて尚、心を痛めるよりは、綺麗だと感嘆したくなった。
他愛ない天候の話など聴かせられてどうしろというのか。それだけのことさえ、教えられなければ知ることのできない身の悔しさを余計に煽られるだけだと、彼の噛み締めた唇が告げている。
此処へ連れてくるよりもっと前から、彼の心はいつだって的確に読み取ってきた。
だからこそ、外壁に罅が入り今や剥き出しになった弱さや怒りや悲しみを向けられると、こういったものを見られなかった人が沢山いたのだという幼い優越感に満たされて、歳がいもなく嬉しかった。
柔らかく空気を食んで笑うと、彼に掴みかかられる。こちらより上背に恵まれた体格は、けれども暴力を振るわない。力任せでこられれば流石に不利なのは明白であるのに、痛めつけることでは何も晴れないのだ。
ただ、代わりに爪をたてられ僅かに肩が軋んだ。着物の上からでは痕さえも残せはしないのに、己が内を食い荒らす激しさを必死に抑えている様が可哀相で、健気で、とても可愛い。
ふふ、とつい零れた吐息に彼は大げさなほど震えて距離をとる。
また顔を伏せて何もかもに耐える姿勢になってしまった。
一度たりとて叱責も折檻もしたことがないのに、彼は時折こうして怯える。
謀略故におそれられた父の影でも見えるのだろうか。
謀も嘘も彼に対して仕掛けたのは、手に入れる為の一手のみ。それでもその一手が、今この状況を作ったのだから、きっと傷になってしまっているのだ。
「貴方は自分が何も知ることが出来ないと嘆いていますが、」
今度はこちらから手を伸ばして額にかかる黒髪を指先ではらう。手の甲でこめかみから輪郭を撫でると彼が身をかたくした。触れるのも語るのも彼は躊躇い厭う。
それらも曝け出されていった心と同じで、いずれ諦め委ねてこよう。
「貴方でなければ、齎せないことがある。それこそが私にとって、とても重要なことなのですよ」
外の天候はもう大地を黒く濡らしている頃だ。指先が覚えるくらい辿った頬をそっと両の手の平で包む。
血色に滲んだ唇へこちらのそれを淡く重ね、外は今こんな音がするのだと教えた。
彼の瞳の湖面が溢れ、零れた雫が畳におちる。きつく閉じた目を開かせ小さな染みを見せたくなった。この部屋にだって雨は降る。


* * * * *

隆景は絶対手あげないタイプだな!と思ってるけど折檻ネタも美味しいから欲望は常に流動的。
頬を叩いたら、そのあとに優しく手をあてて撫でるまでが様式美。
うーん、幸村に手あげる隆景かー、うーん。
綺麗な顔と優しい言葉と丁寧な仕草が崩れることなく、たまに酷いことするのも、有りですL( 'ω' )┘
でも基本はやっぱ、穏やかさでころす人。

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奇病にかかったー11(宗幸)

【幸村は黒い痣が徐々に体を覆ってゆく病気です。進行すると異常に性欲が強くなります。果実の種が薬になります。】

口の中を指でなぶられるのがよほど気持ち良いようで、たらたらと顎を伝い首筋に垂れる唾液も厭わずに、幸村がうっとりと目を細めている。
あたたかく濡れた咥内を弄んでいる宗茂の手を掴み、たくさん構ってもらえるように縋りついて、こんな有様でも相当に我慢しているのだろう。
内股を擦り合わせようとする下半身を必死で抑えつけて身じろぐのが、あからさまな行為より淫らだ。
かつての清廉さは色欲にすっかり穢されてしまっていて、体臭までも変わったらしく、香を纏っているような艶めいた匂いが居室に垂れこめている。
幸村を知る多くの者は変わってしまった姿を見て嘆くに違いない。
しかし宗茂は病躯となった幸村の、本能塗れで笑う顔を、可愛いものだと素直に思えた。
病んだものとて構わず愛でてやれば良い物を。
こればかりは各人、度量の問題だな、なんて、やれやれといった体で苦笑する。
今の幸村は撫でても舐めても喜ぶのだ。触れてほしい、熱がほしい、なんでもいいから満たしてほしいと喘いでいる。
自分に懐いてくるものは殊の外愛らしく情がわくものだ。
それが如何に浅ましく、真心のない肉欲であっても、一時の悪い夢であっても。
吸いつく舌から指を外し口を解放した宗茂へ幸村が切ない目を向けるが、直ぐに別の期待に変わる。
ほしいです、と赤い唇が吐息を零す。宗茂は慈しみたっぷりに微笑みかけ、
「誾千代に叱られるからな。お預けだ」
と眦に浮かんでいた涙を濡れた指で拭うのだった。


* * * * *


宗茂の喋り方、常に吐息まじりでエロ王子。なのにスケベ感ない爽やかオーラが、やっぱり王子。

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奇病にかかったー10(孫幸)

[幸村は右目から真っ赤な花が咲く病気です。進行すると眠りにつくことができなくなります。雪解けの水が薬になります。】

眠らぬ夜は長いのだということを言ったのが幸村でなければ、良い女と居る夜は確かに長いな、とからかってやったところだ。
赤を纏い、赤を掲げ、敵も自身も赤に染まる、最早幸村の象徴として広く知れ渡ったその色の花は、宵闇に灯した薄明かりの中でてらてらと妖しく光った。
血塗りじみた生々しい赤さと質感とは裏腹に、なんとも芳しい匂いが孫市の寝ぼけまなこを優しく閉じさせようとする。
頭をふり、大あくびをすると、幸村の視線を感じた。
『お眠りになればよろしいのに』なるほど、眼差しとは言葉よりも雄弁で素直だ。
「傭兵ってのは、武士も忍も知らない夜の過ごし方に慣れてるもんだぜ」
「でも、昨日も起きておられたでしょう」
幸村が俯くと開いた花の裏側が僅かに見える。浮き出た脈の不気味さが目をそらさせようとする。
あの花を千切ったら血が出るだろうか。それは花が流す血か、幸村のものか。
らしくない空想をするのを自嘲して、今日は何を話そうか、と考える。
武家がこぞって蓄える教養を孫市は知らない。雑賀衆の間で代々語り継がれてきた教えは不出にすべきものが多く、ともすれば用向きで歩いた地で聞きかじった、他愛ない子らの噂話や、老人が聴かせてくれた伝説くらいが精々だ。
昔々あるところに、なんて出だしから真剣に聞き入る幸村は、やはり眠れぬ夜を少しでも紛らわしたいのだろう。
「眠らなくても良いって言や、昼夜問わず働けて俺達みたいな奴らには願ってもないことに思うが、眠れないとなると途端に野暮だね。ずっと起きてたんじゃ美女と迎える朝の麗しさが半減だ」
「孫市殿・・・私は平気ですから。お疲れ、でしょうに」
「おいおい。夜はこれからだぞ?いつもお伽噺じゃ艶がないから、今日は俺が出会った数多のかわいこちゃんについて教えてやるつもりでいるんだ。お前、ぜんっぜんそういう話、きかないしな。どういう子が好みなのか、これを機に言ってみろ。俺が良い子探してやるぜ」
にやにや笑みを向けると、幸村の眉が困った様に下がり、はぁと気のない返事をよこした。
孫市が得手とする方面の事柄が、どうも幸村は悉く不得手らしい。
無知、ではなく無垢と思える純粋さがそこにあって、ああ、大事にされたのだな、と解る。
次男であること、人質として生きてきたこと。性根が捩じくれて野心や妬みを抱えても可笑しくない境遇なのに、幸村は人に好かれてきた。
これでは酷く手放し難かった筈だ。
真田家の嫡男、幸村の兄のことを考えれば、先ほど浮かべた軽薄な笑みがどうしても苦笑になった。
「奥州の春は遅いな」
ぽつりと漏らした声は予想外にくたびれていて、はっとして取り繕おうかとしたものの、幸村は同じだけ潜めた静かな声で「そうですね」と答えた。唯一の薬となる雪解けの水が手に入るのはまだ先だ。
あたたかな日差しが雪深い地を照らすまで、遠い朝を数える日々。
「経験豊富な俺でも話のネタが尽きそうだ」
顎に手をあて大仰に唸ってみせた孫市へ、てっきりまた眠りを勧めるものと決めつけていた幸村は、悪戯な雰囲気で首を傾げて言った。
「そうなったら、次は私の話を聴いてくれますか」
聴き手に徹していた幸村の提案に、這ってきていた眠気がさぁっと引き、目が開くくらいには興味をそそらされた。
きっと幸村と接してきた他の人間達は、こんな風に、淡くゆっくりと惹かれていたのだ。
「いいね。刺激的なやつを頼むよ」

 

* * * * *

孫幸は全てが神サイト様のおかげ。孫幸同盟、実は入ってます。フフ。

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奇病にかかったー9(就幸)

【幸村は額からツノのような突起が生えてくる病気です。進行するととても惚れっぽくなります。星の砂が薬になります。】

「君を手に入れる為に、あれこれと考えていたのだけれどね」
元就の暢気な声音に、鈴をつけられた猫、ではなく、真田家の次男坊だった青年は小首を傾げた。ちりんと首元の金色が揺れる。
腹の探り合いなんて面倒なことをしなくても君はとても素直だから。
言いながら伸ばされた手の平を享受して、喉を鳴らさんばかりにうっとりと撫でられる様は、愛玩されるための生き物のそれだ。
「薬も使い方を誤れば毒になる。逆も然りで、病もそうだね。君にとっては災難なばかりだろうか」
元就自らが毎朝梳いてやる髪は艶艶として指通りが良い。
此処へ来た当初は無頓着で軋むような感覚もあったが、女のようにとはいかずとも上等な触り心地になった。
自分が手入れして変えたのだという気持ちは、予想以上に満足を与えてくれた。
些細な変化が、相手を己が色に染めて手中に収める証となる。
髪を撫で梳いたあと額に滑らせた手は突起に触れる。そこに本来、あるはずのないもの。御伽草子に語られる怪物の姿を写しとった病躯。
しかし幸村は苦しみもがき血を吐くのではない。
心を開け放ち、委ねてしまうのだ。相手を問わず。
それを“惚れる”だなんて医者が言ったから、過保護な兄が守ってしまう前に元就は動いた。
誰にでも恋してしまうなら、その誰かが私一人でも構わないだろう?何人も好くよりはずっとましな筈さ。
幸村を連れてきた元就がもっともらしく平然と語った言葉に、隆景はひくりと口元を僅かに引きつらせたが、間を置いて返したのは首肯だった。賢明にして和を尊ぶ我が子は、諸々の平穏の為に早々に諦めたのだ。

「おいで、幸村くん」
広げた腕の中に直ぐ様おさまる身体はやや細くなってしまっている。
苦痛が見えずともやはり病人だ、とこんなところで解る。
「辛くないかい」
ふるりと首を横に振るのに合わせて鈴が鳴る。
「元就様がお傍に置いてくださる。満たされております。辛いなど、何故きかれるのです」
幸村は元就を喜ばせることばかり口にする。
熱っぽく滲んだ瞳は正気の光がほとんど失せて濁っていた。
また触れた額が熱い。常に発熱しているようだ。
熱さにとろかされて気持ちが良いのか、本当は苦しいと喘いでいるのか、どちらであれ、幸村は元就のものだ。その現状が全てだ。
可愛がればうんと懐いてくる。猫より小鳥より、姫君よりも愛らしい鬼。
「君に、私の国の様々な物を見せてあげたいなぁ。美しい場所が沢山あるんだ。でも、他の人に目移りされては困るから、閉じ込めておくしかないのが残念だ」
抱きしめて耳元に囁いたのは本心だった。
愛しい相手を連れ歩けない。小さな囲いの中で生かしている。
「元就様が私のせいで、心曇らせておられる」
うなだれる幸村の背中をとんとんと柔らかにたたいて元就はごく明るく返した。
「いやぁ、幸せな毎日だよ。とても」
――――残念ではあっても、心苦しくも哀しくもない。
虚構の愛を独占して、理解した上で幸せを語れてしまう歪みこそ、元就の終生患う病であったのだろう。


* * * * *

珍しくしあわせな監禁生活。監禁ネタが異常に好きなことが私の病です( ˘ω˘ )

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奇病にかかったー8(兄幸)

【幸村は左目から紫色の花が咲く病気です。進行すると感情がなくなってゆきます。トカゲの尾が薬になります。】

虚ろな心で作った笑顔と本心からの笑顔の違いを直ぐに判じられないことに愕然として、自分はこれほどまでに弟のことを理解していなかったのだと目の前が暗くなった。
信之は、綺麗に弧を描く幸村の唇を見る。
兄上、どうされましたか。気遣う言葉が冷たく物悲しい。
医者の見立てでは、もう喜怒哀楽のほとんどが薄れてしまって、感情らしいものを見せたらそれは全て作りものだと言う。
その作り物だとて、長くはもたない。
きっと幸村は今に能面染みた顔で、生きながら死んでしまうのだ。
純粋とも、天然だとも、鬼だとも、幸村は評される。信之自身も、お前は花だと例えた。
幸村の鮮やかさも強さも、志も信念も、誰もが美しいと讃える筈のものだった。
存在するだけでひとの心を和ませ、或いは目を奪い、惹きつける輝きがあった。
それらを奪い取り幸村の代わりに咲いたのがこの花ならば、千切り捨ててしまいたい。
兄上、申し訳ございません。
毎日耳にするようになった謝罪に首を振る。
お前は何も悪くない。詫びるべきは余りに無力な私の方だ。
「すまない、幸村。すまない」
どれが本当の幸村か解らない。そう零した相手は誰だったろう。
守るべきもの、大切なもの、信之の誇りと愛しさを一心に注いだ弟。
なのに、お前が大事だとは言えても、お前を解っているとは言ってやれない。
明日には二度とその顔に浮かぶことがないかもしれない微笑み。
絶えかけた心を掻き集めて作られたそれを、食い入るように見詰めた。


* * * * *

どの幸村が本当か解らなくても、幸村がとにかく【純粋】だっていうのは本当だろうなって。
流浪演武、実はまだ序盤で止まってます。
でも各方面からの感想を見るに、あー幸村ってば人の願いを映す鏡なんだー偶像なんだーと思ってしまって深みにはまった。どうなんですか。本当の幸村が知りたいですコーエー様。

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奇病にかかったー7(隆幸)

【幸村は左目から体を覆う蔦が伸びてくる病気です。進行すると自我を失います。星のかけらが薬になります。】

「囀りの教え方を間違えたのかい?」
自分とは目を合わせることのない父親が熱心に見守る先にいるものを、子供じみた独占欲で隠すことなど隆景はしない。
「いいえ。忘れてしまうのです。覚えは良いのですけれど」
頬に手を伸ばし今朝方萌した柔らかな芽に触れる。このまま育てば葉は視界を遮るだろうから、今の内に千切ってしまう。
左目から伸びる蔦が絡まる部分は徐々に広まっており、首に巻きついて絞まらないよう注意してやらねばならない。
奇異なる病に侵された憐れなひとは、正気であればさぞかし己が姿を嘆こうものだが、当人は寝起きのようなぼんやりとした顔で安穏とされるがままに座っている。
「幸村殿」
呼ばれたことに応えてというより、声に反応して彼は口を開いた。
「あに、う、え?」
望む名前は得られず、元就から受けた指摘を早速耳にすることになってしまった。
が、あくまで予測通りで、いつものことであるから、隆景は悠然と微笑む。
「たかかげ、ですよ。幸村殿」
「た、か、か、げ・・・ゆ、きむ、ら」
「以前より舌が重くなりましたね」
たどたどしい鸚鵡返しに感じるのは庇護欲と胸の高鳴り。それから一片の憐れみ。
彼は自分自身を失っている。
今日教えることもまた、明日には忘れる。
いつまでも正しく鳴けない、籠の中の病んだ鶯。
「春告げ鳥が、歌う季節を誤っては凍えてしまいそうだ」
こんな状態の幸村を幾ら愛しても愛されることなどない、と解りきった事実を例える元就へ、隆景はごく穏やかに言った。
「この子こそが春ですよ」
誰に対しても礼儀をもって境界を引く隆景の、煮溶かすような甘やかした言い様に、親として垂れる説教は不要だと元就は悟る。
上辺だけ諦念を装い溜息をついている間にも、ここはどこだろう?わたしは?あなたは?と空っぽの記憶に浮かぶ疑問を呟きだした幸村を隆景が丁寧にあやしていた。


* * * * *

基本幸村はお花ちゃんなんですが、対毛利親子だと鳥に例えたくなる。
かーごーめ かーごーめ、かーごのなーかの とーりーはー♪

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奇病にかかったー6(高幸)

【幸村は左目から桃色の花が咲く病気です。進行すると甘いものばかり食べたくなります。愛する者の涙が薬になります。】

「いやです」
言ったそばから幸村は団子を頬張った。人が懸命に出ない涙を絞り出してきというのに、この返答。
もごもごと動く頬を抓ってやりたくなる高虎の気持ちは真っ当だ。
今までは殊勝なことしか言わなかったのが、少々我儘を言えるようになったのがとても可愛いらしいと、幸村へ菓子を届けてやる甘い人間は残念だが大勢いる。
既に身を失って転がる串は吉継からの差し入れだろう。
何度抗議してもどこ吹く風で、幸村の為にせっせと方々から甘味を集めるのが趣味になっているのだから、涼しい顔をしながらの溺愛ぶりには頭痛がする。
桃色の花として芽吹いた、幸村の病。
左目は幾重にも開く花弁の奥に完全に埋もれてしまっていて、しかし視界に影響はないというのだから不思議だ。
瞬き代わりに時折花弁が震えて、はらはらと落ちる。
「薬なんだから我慢しろ。餓鬼か」
「だって高虎殿、その涙、煙で目を痛めて出したでしょう?ただでさえ塩辛いのに、煙たい匂いまでしたら飲み込めません」
舌が痺れるのです、などとのたまって次は饅頭を取ろうとしたから、その手をばし、とはたいたのも仕方のないことだ。
「我儘言うな。とっとと飲め」
下唇に親指をかけ顎をぐっと押さえて口を開かせる。
あまったるい息が苛められた仔犬のように呻くから、一瞬力が緩みかけるが、高虎は結構な時間痛みに堪えて溜めてきた涙を流しこんだ。
といっても雨粒をいくらか舐める程度の量だから僅かなものだ。
幸村は眉を寄せ、苦みを耐えるような顔をして嚥下した。
「・・・高虎殿も、共に甘味を食べれば良いのです」
「饅頭は喰ってるだろ」
「もっと沢山。そうすれば、涙も甘くなるかもしれません」
全く子供じみてしまったものだ。周りの人間も、食べる物も、考えも呼吸も何もかも甘い。
「口に苦し、の筈の良薬が塩辛いだけましだと思え」
説教くさい目線で睨みつけ、高虎は一番手近にあった餅を頬張る。
「あ、それは上杉家から頂いた、」と幸村が言うのが遅かったのは、わざとではないのだ。決して。


* * * * *

高虎は世話焼きが似合うなぁ。風邪引くだろうが!って言いながらお風呂上がりの髪をタオルでがしがし拭いてあげる系の。兄上の構い方は過保護で、高虎のは面倒見が良い。

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奇病にかかったー5(三幸)

【幸村は右目から紫色の花が咲く病気です。進行すると一日を殆ど眠って過ごすようになります。花に付いた朝露が薬になります。】

漆塗りの椀の中に陽の光を受けてきらめく雫が滑らかに落ちて行く。重たそうに朝露を纏った花々を散らさぬよう気をつけながら丁寧に作業を続ける。
眠気で散漫になって袖が触れてしまうとせっかくの露を吸ってしまうから、多少の寒さを我慢して、腕は剥き出しだ。
椀が半ばまで満ちたところで三成はつめがちだった息を大きく、ゆっくりと吐き出した。
戻る道は自室ではなく、その隣に位置する部屋。
少し前までそこは乱雑に書物が仕舞われていた埃っぽいところだったが、今はどこよりも清潔でどこよりも静謐で、前を通ると、呼吸の仕方を寸の間忘れる。
「入るぞ」
返事がないことを理解した上で三成はいつも必ず声をかける。
無音を聴いてから襖を開け、静寂を壊さないように歩を進める。
殿は歩き方が雑なんですよ、足音でまで周りを突っぱねてどうするんです。なんて軽口を叩かれた挙動の影はまるでない。
神への捧げものよりも大切なものだと、酷く慎重に椀を置いて、腰をおろした。
見つめる眼差しの先に、紫苑色の花を宿した白い顔がある。
この部屋が放っておかれていた頃には、生気に溢れ輝いていた顔色。鍛錬のあと、血色よく火照った頬に伝う汗を拭ってやったのは遠い日のことではない。
思い出し、頬へ手の甲をあて滑らせても、手の冷たさが心地良いとはにかむ声は返らない。
むしろそこは、三成の手よりもひやりとしている。
体中が、怖くなるほど冷えているのだ。
「朝寝もすぎて、三日経ってしまったぞ。槍が恋しかろう、幸村」
呼びかけで直ぐに目を覚ませていたのは花が蕾のころで、開き切ってからはどれだけ大声をだしても身をゆすっても眠っている。起きている時間がどんどん短くなって、数日の間に一刻覚醒していればよい方だ。
起きている時の幸村はまだ夢を見続けているようにぼんやりしていて、幼子のように拙く話す。
『みつなりどの』と呼ぶ声音が舌足らずで危うげで、そしてとても甘ったるく耳に残る。
信念を貫こうとする意思の強い声が聴きたい。戦場の怒号の中を突き通る勇ましい叫び。平穏の中で笑う純朴な声。
このままでは甘さばかりに浸されて腐り落ちてしまいそうだと、三成は時折、耳を塞ぐ。
病に罹る前から変わらぬ幸村の音が欲しくなり、薄く上下する胸の上に顔を寄せる。
目を閉じて意識を傾ければ、心の臓の確かな鼓動が聴こえて安堵する。
三成にいつでも応えてくれるのはその密かな音だけで、縋っているのだと自覚すればするほどに、離れがたく愛おしかった。

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奇病にかかったー4(真田兄弟)

【幸村は右目から真っ赤な花が咲く病気です。進行すると強い痛みを伴います。星の砂が薬になります。】

幸村は己を訪ねてきた人の気配に、ふんわりと相貌を和らげた。
なんとも痛ましげな顔をして、具合はどうだと気遣う声こそが酷く苦しそうだ。
はい、今日はこの晴天のおかげでしょうか、昨日より随分楽です。
その答えに、信之は小さくほっと息をついた。
こんなものは気休めだ、と己の胸が疼く。
痛みは日毎に増している。花は、初め梅の蕾ほどしかなかったのに、どんどん大きく育って今は顔の右半分をほとんど覆ってしまいそうだ。
痛みの強さが花を慈しんでいるかのように、頭痛が絶えず、雨の日などは割れそうでたまらない。
それでも幸村は信之へ決して、そのことを言わなかった。
痛むかと問われればいいえと首を振る。痛むのだろうと言われればかすり傷にも及びませぬと返す。
信之の優しい心が苦しむことの方が、幸村にとっては辛いのだ。
「兄上、どうかご心配なさらずに。大したことはございませぬ」
「本当か?」
「はい。ただ、花が邪魔をして、兄上のお顔をよく見られぬのが寂しいです」
子供じみた言い様をすると信之の様子が僅かに明るくなる。
その言葉は本心の一部であるのに、関心を逸らすための方便のようで、罪悪感が喉を詰まらせる。
「辛かったら、直ぐに呼びなさい。してやれることも、ないのだろうが」
信之が去ったあとの部屋に、くのいちが音も無く現れる。こちらもやはり哀しそうだ。
「幸村様、そうやって笑うの、やめてくださいよぅ」
「すまないな」
謝るくらいなら痛い痛いって当たり散らすくらいしてほしいです。
くのいちの泣きそうな声に、幸村はようやく、伸びた背筋を緩やかに曲げた。



* * * * *


幸村の背はどんな時でも凛と伸びてるだろうから、それが曲がってしまうのは相当辛い時だという妄想。
だからこそ人には見せない伏した背中のなだらかな曲線を撫でたいと思うわけです。弱ってる幸村萌え。

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奇病にかかったー3(就幸)

【元就は右目から真っ赤な花が咲く病気です。進行すると感情の起伏が激しくなります。人魚の鱗が薬になります。】



「わるい、ね」

苦笑と共に零れた囁きはとても淡い音だった。
雨粒のようにぽたりと幸村の胸に落ちて、熱を持ちながら染み込んでくる。
病が深くなるにつれ、元就は幸村へ、『逃がさない』とか『絶対に離さない』とか、そういった強い言葉を使うようになった。
心が自制できない、欲が曝け出されてしまうと、疲れた顔をして己を嘲った元就の目はずっと、幸村を捉えたままでいた。
穏やかで思慮深い、乱雑なところのなかった人が、どこに激しさを隠していたのだろう。
元就から掴まれた手首が軋む。皺の刻まれた指なのにぎりぎりと骨を締め付ける強さは、人としての箍が恐らく外れているのだ。
「元就殿」
呼んだ名は哀願に聴こえたか、それとも恐怖か。
慕っていたのだ。彼の人のことを。
謀神などという恐れからは程遠く柔和に微笑む、書物を愛し歴史を語る、沢山の言葉を知っている人。
膨大な知識の海から相応しい物を掬いあげて、丁寧に紡いで話してくれた、優しい――――

「君を誰にも渡したくない。二度と此処から出さない。ああ、違う、こんな風に言いたいんじゃ、いや、同じことだ。私はもう私を抑えておけない。幸村くん、幸村くん、私は、ね」

君が全て欲しいから、君を壊したいんだ。
腕を引かれきつく抱きしめられた息苦しさの中で、赤い花は鉄錆に似た匂いがした。

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