忍者ブログ

鷽の宿木

戦国無双シリーズ 真田幸村総愛され欲を書き散らすブログ。幸村を全方位から愛でたい。

奇病にかかったー2(吉幸)

【吉継は喉からぽろぽろと金平糖が出てくる病気です。進行すると強い痛みを伴います。雪解けの水が薬になります。】


器に溜まった金平糖は吉継が苦しんだ証だと解ってはいても、花々もかくやという様々な色と星粒が落ちてきたような形がどうしても目を引いた。
心の無邪気な部分が誘惑される。一度舌が覚えた甘さは容易には忘れられない。
今日は幾分か調子が良いようで、吉継は咳ひとつしていない。
だからこそ幸村を茶に呼んだのだろうが。
「あまやかな物が好きか」
ふふ、と微笑ましげに問われて幸村は赤面する。物欲しげな顔をしていたろうか。
意地汚いと己を叱咤する前に、吉継は金平糖を一粒とってかざしてみせる。
「うつる病ではないとはいえ、嫌悪する者もいるが、お前はまるで気にしないな」
「吉継殿のことをどうして嫌悪など致しましょう」
「三成もそう言ってくれた。が、誰しもお前達のような心根ではないから」
だから嬉しい、と続くのか、嘆かわしい、と続くのか、幸村は察するのを放棄した。
人の言葉の先を読むのは心に踏み込む行為であって、無意識にそういったことを避けているが故だ。
「吉継ど、の、っ?」
唇に押しあてられた微かに冷たい粒。
驚いて身を引こうとする幸村を眼差しで止めて、吉継は無遠慮に金平糖を割りいれた。
「溶かすと良い。ゆるりとな」
ああ、吉継殿の目が笑っている。言われずとも金平糖は口内の熱で舌を甘さの虜にしていた。
飲み込んだ唾液が甘い。甘い。
「怖がって誰も口になどしない。俺は己が身から吐き出した物をまた戻すのは億劫でな。どうせ捨てるなら欲しがる者にやりたい」
幸村の唇と喉の動きを見ながら次々と金平糖を差し出す吉継は、楽しい戯れに興じているようでいて、病の苦しみが束の間でも慰められるならと、大人しく従う。
これほど甘い物を口にし続けたのは初めてで、くらくらと恍惚に似た眩暈が幸村をじんわり包み込む。
「俺が溶けて行く。お前の内に。うつらぬのが残念だ」
もしお前も同じ病に罹ったなら、今度はお前の吐き出した甘さを俺が味わいたい物を。
吉継の声はとても穏やかで、幸村は夢を見ている心地になった。


拍手[0回]

PR