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鷽の宿木

戦国無双シリーズ 真田幸村総愛され欲を書き散らすブログ。幸村を全方位から愛でたい。

奇病にかかったー6(高幸)

【幸村は左目から桃色の花が咲く病気です。進行すると甘いものばかり食べたくなります。愛する者の涙が薬になります。】

「いやです」
言ったそばから幸村は団子を頬張った。人が懸命に出ない涙を絞り出してきというのに、この返答。
もごもごと動く頬を抓ってやりたくなる高虎の気持ちは真っ当だ。
今までは殊勝なことしか言わなかったのが、少々我儘を言えるようになったのがとても可愛いらしいと、幸村へ菓子を届けてやる甘い人間は残念だが大勢いる。
既に身を失って転がる串は吉継からの差し入れだろう。
何度抗議してもどこ吹く風で、幸村の為にせっせと方々から甘味を集めるのが趣味になっているのだから、涼しい顔をしながらの溺愛ぶりには頭痛がする。
桃色の花として芽吹いた、幸村の病。
左目は幾重にも開く花弁の奥に完全に埋もれてしまっていて、しかし視界に影響はないというのだから不思議だ。
瞬き代わりに時折花弁が震えて、はらはらと落ちる。
「薬なんだから我慢しろ。餓鬼か」
「だって高虎殿、その涙、煙で目を痛めて出したでしょう?ただでさえ塩辛いのに、煙たい匂いまでしたら飲み込めません」
舌が痺れるのです、などとのたまって次は饅頭を取ろうとしたから、その手をばし、とはたいたのも仕方のないことだ。
「我儘言うな。とっとと飲め」
下唇に親指をかけ顎をぐっと押さえて口を開かせる。
あまったるい息が苛められた仔犬のように呻くから、一瞬力が緩みかけるが、高虎は結構な時間痛みに堪えて溜めてきた涙を流しこんだ。
といっても雨粒をいくらか舐める程度の量だから僅かなものだ。
幸村は眉を寄せ、苦みを耐えるような顔をして嚥下した。
「・・・高虎殿も、共に甘味を食べれば良いのです」
「饅頭は喰ってるだろ」
「もっと沢山。そうすれば、涙も甘くなるかもしれません」
全く子供じみてしまったものだ。周りの人間も、食べる物も、考えも呼吸も何もかも甘い。
「口に苦し、の筈の良薬が塩辛いだけましだと思え」
説教くさい目線で睨みつけ、高虎は一番手近にあった餅を頬張る。
「あ、それは上杉家から頂いた、」と幸村が言うのが遅かったのは、わざとではないのだ。決して。


* * * * *

高虎は世話焼きが似合うなぁ。風邪引くだろうが!って言いながらお風呂上がりの髪をタオルでがしがし拭いてあげる系の。兄上の構い方は過保護で、高虎のは面倒見が良い。

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