好きな子をいじめてるみたいに見える隆幸 小ネタ 2014年07月18日 「もうすぐ雨が降りますよ」 彼が知ることのできない外の様子を教えてやると、伏せていた顔をあげて久しぶりに目を合わせられた。 真っ直ぐ射ぬくような、というよりは磨いた鏡面のように、丁寧に相手の姿を映していた瞳が、今は石を投げいれられた湖面の如く揺らいでいる。そう見えるのは薄く張った涙の膜のせいだろう。 はっきりと哀切を訴えられて尚、心を痛めるよりは、綺麗だと感嘆したくなった。 他愛ない天候の話など聴かせられてどうしろというのか。それだけのことさえ、教えられなければ知ることのできない身の悔しさを余計に煽られるだけだと、彼の噛み締めた唇が告げている。 此処へ連れてくるよりもっと前から、彼の心はいつだって的確に読み取ってきた。 だからこそ、外壁に罅が入り今や剥き出しになった弱さや怒りや悲しみを向けられると、こういったものを見られなかった人が沢山いたのだという幼い優越感に満たされて、歳がいもなく嬉しかった。 柔らかく空気を食んで笑うと、彼に掴みかかられる。こちらより上背に恵まれた体格は、けれども暴力を振るわない。力任せでこられれば流石に不利なのは明白であるのに、痛めつけることでは何も晴れないのだ。 ただ、代わりに爪をたてられ僅かに肩が軋んだ。着物の上からでは痕さえも残せはしないのに、己が内を食い荒らす激しさを必死に抑えている様が可哀相で、健気で、とても可愛い。 ふふ、とつい零れた吐息に彼は大げさなほど震えて距離をとる。 また顔を伏せて何もかもに耐える姿勢になってしまった。 一度たりとて叱責も折檻もしたことがないのに、彼は時折こうして怯える。 謀略故におそれられた父の影でも見えるのだろうか。 謀も嘘も彼に対して仕掛けたのは、手に入れる為の一手のみ。それでもその一手が、今この状況を作ったのだから、きっと傷になってしまっているのだ。 「貴方は自分が何も知ることが出来ないと嘆いていますが、」 今度はこちらから手を伸ばして額にかかる黒髪を指先ではらう。手の甲でこめかみから輪郭を撫でると彼が身をかたくした。触れるのも語るのも彼は躊躇い厭う。 それらも曝け出されていった心と同じで、いずれ諦め委ねてこよう。 「貴方でなければ、齎せないことがある。それこそが私にとって、とても重要なことなのですよ」 外の天候はもう大地を黒く濡らしている頃だ。指先が覚えるくらい辿った頬をそっと両の手の平で包む。 血色に滲んだ唇へこちらのそれを淡く重ね、外は今こんな音がするのだと教えた。 彼の瞳の湖面が溢れ、零れた雫が畳におちる。きつく閉じた目を開かせ小さな染みを見せたくなった。この部屋にだって雨は降る。 * * * * * 隆景は絶対手あげないタイプだな!と思ってるけど折檻ネタも美味しいから欲望は常に流動的。 頬を叩いたら、そのあとに優しく手をあてて撫でるまでが様式美。 うーん、幸村に手あげる隆景かー、うーん。 綺麗な顔と優しい言葉と丁寧な仕草が崩れることなく、たまに酷いことするのも、有りですL( 'ω' )┘ でも基本はやっぱ、穏やかさでころす人。 [1回]PR