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鷽の宿木

戦国無双シリーズ 真田幸村総愛され欲を書き散らすブログ。幸村を全方位から愛でたい。

俺の親友が深夜徘徊をやめた代わりに出待ち癖がついて胃が痛い

続いてしまった現パロ吉幸。前回よりは吉幸度が上がっていると思いたい。もうこれ三成が主役な気がします。
幸村に三国志を進めたとある人との話は書けたら書きますぞよ(:3っ )っぞよよ。


* * * * * 



「そういえば」

落書きで盛り上がっていた正則から教本を取り上げつつ、買い出しのメモを確認しながら清正はちらりと三成を窺った。
目つきの悪さのせいで睨むような眼差しをしているが、顔を突き合わせれば挨拶代わりにこの馬鹿とか言いつ言われつする仲であるから、今の清正が随分と大人しいというか、気遣わしげですらあるのを三成は感じ取った。

「お前がよくつるんでるあの白い奴」

清正がそう形容した途端、脳は忠実に友の姿を思い描き、彼にまつわる最も新しく強烈かつしょっぱい記憶を提示する。勝手に奥歯に力が入りぎりっと嫌な音がした。

「吉継がなんだ」

出来ることなら聞きたくない。不穏な予感が肌を粟立て、眉間にきつい皺を刻ませる。
しかし三成に根差した吉継への保護者的な気持ちが不承不承でも先を促してしまった。
清正はむぅ、と珍しくも思案気に唸ったあと、腹をくくって言い放つ。

「ダチなら言ってやれよ。受動的でもストーカーは犯罪だって」
「えぐふっ」

話題に上っている当の吉継本人から押し付けられた新発売のチョコバナナプリンシェイクが喉で謀反を起こし、鎮圧と引き換えに脇腹を刺されたような呻きが出た。

「おいおいでぇーじょーぶかよ三成ぃ!そんな慌てて飲まなくても誰も取りゃしねぇぞ」
「・・・・っ、げふ、意地汚いお前と、ごほ、一緒にするな、うぐ、慌ててなどいない」

正則が無邪気にからかうのを横目で睨み息を整える。自慢のリーゼントにシャーペンを突き刺して現代生け花の練習台にしてやろうか。そんな八当たりが頭をよぎった。

「その様子だと知らないのか。最近自縛霊の噂が学内で流行ってんだぞ。なまっちろくて目元しか出てない男が図書館の前で恨めしそうに立ってて、獲物が通りかかると笑うんだとさ」

外見の特徴も行動の奇妙さも完全に吉継で、まさかそんな人違いだろうと自分を誤魔化して現実逃避することも出来ない。
いつも何かと突っかからずにいられない清正が同情の眼差しをして深く追求してこないのが堪えた。大事な所ではちゃんと空気を読む男なのだ。

「・・・自縛霊の所業はそれだけか」
「ん?噂だからな、見ると呪われるとか、実は官兵衛教授の式神だとか、色々尾ヒレがついてるみたいだが、多分他に妙なことはしてない。と、思う」
「三成よう、お前幾らダチが少ねぇからって、幽霊はどうなんだ?」

いまいち話に乗り遅れている正則を今度は無視して、ふってきた清正に向き合う。短く切られた髪の白さが吉継を彷彿とさせるから毟り尽くしてやりたくなった。白い物に対して今はとにかく凶暴だ。消しゴムにさえも殺意を向けそうな程に。

「受動的なストーカーというのは何だ」
「無意味に同じ場所に突っ立ってるだけなのも怖いけどな、あれは人を待ってんだよ。お前が目かけてる真田の」
「もういい分かった一刻も早くおねね様の顔でも見てこい今夜はビーフシチューだな」

清正が眺めていた買い物メモの見慣れた文字と、添えられた『たまには三成も引っ張って連れておいで!』の言葉に今は全力で従いたい。母親がわりである故に、照れ隠しで鬱陶しさを態度に出してしまうが、現実に苦しめられている今はあの慈愛が欲しかった。あの人ならばどんなことでも広く深く容赦の無い母性愛で丸く収めてしまうのだろう。
全てを理解してしまった三成の脳裏に敵前逃亡の文字が燦然と輝いていたが、気力を振り絞って打ち消した。
それもこれも器用に道を踏み外しつつ流れていく親友のせいで、素直で純粋で可愛い後輩のためだ。

「なー三成」
「俺は用事を思い出したから失礼させてもらう。おねね様にはよろしく伝えておいてくれ。近い内に顔を出すことになるかもしれませんと」
「おい三成よう」
「お前からそう言うのは珍しいな。分かった」
「おいこら頭でっかち!」
「煩いなんだ馬鹿」
「勿体ないことすんなよな。もう飲めねぇじゃんそれ」

諸々の想いが万力となって込もっていた手の中では、チョコバナナプリンシェイクが缶ごとご臨終し、三成の鞄をべたべたの甘い匂いでドレスアップさせていた。

「・・・正則」
「お?なんだよ」
「お前の自慢の髪型、良いオアシスになりそうだな」

一番鋭いシャーペンをペンケースから取り出して構える三成の心には、修羅が芽生えていた。



* * * * *


「へー。うすぼけた春だねぇ」

低反発枕に頬を預けながらだらけきったごろ寝姿勢で返す半兵衛に、幼馴染を文房具で飾りつけ一仕事終えた三成は懇願した。

「お願いです。俺がいない時だけ、いやゼミがあった日だけで良いのです。吉継をここに引きとめておいてください半兵衛教授」

目上であっても不遜さが目立つ三成にしては酷く殊勝な態度だったが、半兵衛はいたって不真面目に、可愛らしいあくびを零す。

「教え子を閉じ込めるとかさ、問題になるじゃん。怒られるの俺だよ。やだやだ面倒くさいし。そういうのは官兵衛殿に頼みなよ」
「貴方が吉継のゼミ担当だから言ってるのでしょう!」

こういうのも類は友を呼ぶと言っていいものか、電波受信気味の吉継を変わり者と括るなら、この教授も変わり者で、かつ学内トップクラスの切れ者であった。
変わり者同士引きあった縁で面倒見てくれ、その知略でもって奇行を抑えてくれという、三成の願いはすげなく一蹴される。

「俺は学生達の自主性と自由を応援してるんだよねー。なるべく首は突っ込まず手は出さず、どっしり構えていてやりたいわけ。しかも三成にとっては親友の青春でしょ。あたたかく見守ってあげれば良いのに」
「つい最近親友の間柄を考え直したばかりです」
「あらら」

そもそもの始まりである、吉継曰くの『運命の夜』を話してきかせても、半兵衛は低反発枕といちゃいちゃしっぱなしだ。

「吉継もさぁ、何事にもとりあえず流されとく事なかれ主義なのに、恋となれば積極的で情熱的だなんて、意外な一面が発覚して面白いじゃん。三成はカリカリきりきりしすぎ。いっそ楽しめば?」
「趣味は夜間に奇行に走ることで、回覧板に乗ってご近所に不穏の種をまき、自覚直後のアプローチがまさかの婿入り要請で、共に過ごした思い出を消し去りたくさせた友の恋路。そんな状況をどう楽しめばいいのです」
「人生経験が足りないね」

学内随一の童顔と華奢な体型をもち、新入生からは必ず学生に間違われる教授は、人生経験云々ではなくて性格的な図太さが違いすぎていた。
んー、と一旦伸びをする声は明らかに昼寝姿勢直前のもの。

「このままでも俺は面白いから良いけど、行き過ぎた吉継が問題起こしかねないし、その前に三成が般若の形相で倒れそうだし?相談くらいならこれからも乗ってあげるよ。頑張って」
「半兵衛教授・・・・」

手をかす、知恵をかすとは言わず、あくまで話をきくだけに留めるあたり完全に暇つぶし認定されたと悟った三成は全力で机の上につっぷした。



* * * * *



「――――どの、吉継殿?」

吉継は自分が親友の胃を大いに痛めつけているとは知らず、目の前で気遣わしげに声をかけてくる可愛い後輩―――から、更に一歩踏み込んだ気持ちを抱いた幸村へ柔らかな眼差しを向けた。
世の女性が見たら、ぽっと頬を赤らめ胸をときめかせずにいられない優しい物だ。
手には親友が苦悩の余り握りつぶしたシェイクの苺バージョンが握られている。こちらは平和にちびちびと飲み進められていて、口の中に広がる春の甘酸っぱさが恋の味である。

「・・・・・ん、ああ。どうした、幸村」
「急に静かになられたので、どうかされましたか」
「三成に思いを馳せていた」

本人がきいたら鬼の顔で手にしたシェイクを叩き落とすだろうことなどまるで思い至らずに、吉継はほんわりとやや上を見て、チョコバナナプリン味の方はどうだっただろうかと考えた。

「吉継殿は三成殿と本当に仲が良いのですね」

破顔した幸村の無邪気な物言いと素直な感想に吉継は頷く。最近親友キャンセルを喰らいそうなのだ、とは全く無自覚であるから言う筈もない。
図書館前で待ち伏せ、もとい偶然の出逢いを果たした幸村を中庭のベンチに誘った吉継はほのぼのとした一時に心の安寧を感じていた。
挙動の端々に胸をきゅんと締め付けられるようなときめきもあるが、それよりも、ほっと一息つけるような穏やかな時間が幸せで、長く共に居たい相手とはこういうものだろうなと確信する。
と同時に、共に居るならばやはり大谷姓になってもらわなければと決意を深めていた。
はっきり断られたわけではないから以前の失敗はノーカンとなったらしい。
吉継は恋路においてポジティブかつ、不都合なところでは適当だった。

「最近よく図書館前でお会いしますね。吉継殿も気になる本がおありですか」
「俺が気になっているのはお前だ」

前回のプロポーズ未遂で幸村の天然さが厄介なほどだとは理解したのでストレートに言ってみれば、はてと首を傾げたあとに幸村はやや眉を下げ恥ずかしそうな表情をした。

「やはり私のような者が読書とは、似合いませんか。幼い頃は兄に読んでもらったものですが、確かに自分からはあまり手を出さずにいましたから」

しっかりと勘違いした答えを返されても吉継はめげない。
そういう流れか、と落胆もせずに会話に乗って見せる。

「そうでもない。お前は運動方面に長けているが、普段は物静かな男だ。そうして本を抱えているのも似合っているし、興味深げにページをめくって目を輝かせているのも微笑ましいものだ」
「そうでしょうか・・・・吉継殿からそう言われると、お墨付きを頂いたような心強さがあります。そうだ、三国志を読まれたことはありますか?少し前にとある方に勧められて読み始めたのですが、面白いのです」
「話の大筋は知っている。が、きちんと読んだことはないな」
「では是非読んでみてください!図書館にも揃っておりますから。時間があるのでしたら、これからでも一緒に行きましょう」

共に語らいたいのです、と訴えてくる瞳が眩しく、愛くるしく、しかも幸村の方から誘ってきて、鴨がネギを背負ってきたとはまさにこのことだ。

「ああ。ではこれを飲み終えたら早速行こう」

幸村の気配がそわそわしだしたのにくすぐったさを覚える。
この時間がなるべく続いて欲しくてつい舐めるようなじれったい飲み方になるのを咎める者はいないから、吉継は恋の味をゆっくりと楽しんだ。―――――かに思われた。


「ええい人の胃痛も知らずこの流され花吹雪幽霊が!話を大げさに飾りつけて信之に言いつけるぞ!」


ぱぁんと小気味いい音を響かせ見事な平手で苺プリンシェイクをはたき落とした相手は、吊りあがった目で春爛漫な吉継を睨みつけた。

「三成・・・いつの間に背後にいた。まるで忍のようだな」
「ええ、私も全く気付きませんでした・・・流石です三成殿」
「幸村、お前に関心されるのは悪くないが今は少し黙っていてくれ。吉継、図書館には行かせん。俺と来てもらおうか」

強引に手を掴み、見てくれによらない腕力でベンチから引き上げると三成はそのまま吉継をずんずん引きずる。
背後から聴こえた「三成殿?」のぽかんとした邪気の無い声に心が癒されつつ痛みつつしたが、振り返らずに足を進め、人気のない場所まで来て壁に吉継を追い詰めた。
見ようによっては美形が美形に無理矢理迫ろうとしているかのようないけない図なのに現実はそう耽美ではない。
胃の痛みに合わせてきりきり吉継を絞めあげる三成の形相は、悲壮感も相まって地獄の鬼ももうおやめになってと縋らんばかりのものだった。

「吉継、図書館の前で幸村を待ち伏せているらしいな。四六時中つけ回すよりはまだ穏便だが、ストーカー行為の第一歩だぞ」
「待ち伏せではない。出待ちだ」
「どこに拘っている!ファンか?幸村ファンなのかお前は?花束でも渡す気か!」
「それも良いな」
「アドバイスしたわけではない!!」

がくがく揺すぶられながらも吉継は器用に三成と目を合わせる。
色素の薄い瞳が余裕をなくした三成の必死な目を覗き込むと途端に動きが止まった。
マスクの下で吉継が不敵に、どこか自信ありげに笑うのが分かる。背負う効果音は『どやぁ』だ。

「お前が言うように、俺の行動が第一歩ならば、さっき二歩目を踏み出せた。というわけで、これから幸村と本を借りに行くからお前も来るか」

踏み出したのではなく、踏み外しているのだと何度正せば理解する。

「吉継・・・・吉継頼む、俺と同じ言葉で話しているのだからもう少し俺と意思の疎通をはかってくれ。俺はお前が心配だ。あと胃が痛い」

地獄の鬼もハンカチを濡らす顔で三成が崩れ落ちる。ショックのあまり乙女座りで。
この親友はもう戻れないところにいるんだ。春がきたとか脳内がお花畑とか超えて、咲いた花をかたっぱしからもしゃもしゃ食べてるんだ。花壇も野原も食卓なんだ。
三成は無性にねねのあたたかさが恋しくなった。
吉継が声をかける前に、がらりと頭上から窓が開く音がする。

「卿ら・・・・場所を選んだつもりだろうが、こちら側まで響いているぞ」
「あー官兵衛殿ってば。せっかく面白かったのに」

真白い顔で黒々した服を纏った亡霊が、見かねた風に立っている。三成を見る目がほのかに憐れみを宿していて、その隣でにやにやと愉しそうにしている半兵衛と対比すると、彼はとても優しかった。
手をかさず、知恵もかさず、首も突っ込みたくは無いと言ったくせに、暇になるとこの教授は厄介だった。

「三成」

幾分か真面目な声音とともに肩に手がおかれる。
三成は、まさかようやくこのタイミングで通じたのかと、希望を胸に吉継を見上げる。
吉継は幸村に向けるのとはまた違う、見慣れた友としての優しい眼差しで言った。

「ところでお前から甘い匂いがするが、俺がやったチョコバナナプリンシェイクはどうだった?」

三成はとうとう地面に臥せり、吉継の問いには、「あれって甘さがくどいよねぇ」と半兵衛がのんびり答えた。

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