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鷽の宿木

戦国無双シリーズ 真田幸村総愛され欲を書き散らすブログ。幸村を全方位から愛でたい。

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行動力に比例した呪力持ちの吉継さんと可哀想な左近さんのとある日

ツイッターの140字SSお題「入れ変わり」を吉幸で書こうとしたら140字どころではなくなり小ネタの域もこえてしまった話。入れ変わりって王道中の王道ネタで、あんまり妄想しなかったんですが王道なだけあって楽しいですね。
吉幸も4つ目ですがやっぱり肝心の吉継と幸村の絡みが薄い。何故( 'ω' )教えておじいさん。





* * * * *


将達の周りにいるおなごといえば男より勇ましく戦う烈女が多く、動きやすさを重視してか惜しげも無く肌が晒されていて、哀しいかなどれほど目の保養であれ慣れというものは訪れる。
故にどきりとさせられるのは着こんだ者のふいの露出なのだが、左近は目前の光景に不覚にも騒いだ胸を叱咤したかった。
年頃のおなごよりも素肌を隠すこと徹底した、鉄壁の防御を誇る、不埒さのかけらもないもののふの手本―――幸村が着物をおもいきりはだけて、更に脱がんとしている。
日に当たらない肩、鎖骨、胸板。武人らしい引き締まった男の身体は、見事な鍛えようだと感心こそすれ、色気なんて微塵も感じない筈と思っていたのは先刻までの話だ。
大甘過保護の殿が見たら失神しかねんな、と主君の反応を想像することで冷静さを取り戻し声をかける。

「誰ぞにまた妙なこと吹きこまれたのか?それとも酔ってんのかい。うっかり殿が見ちまう前に・・・」
「ああ。左近か」
「はい?」

幸村は平素の穏やかさとは違う、涼やかな声音でいらえをした。
よく見れば浮かべる表情もどこか人形くさい。純朴さがないのだ。
何かにこなれたような雰囲気は天然朴念仁と称される青い男のものではない。
左近はとっさに空の徳利や猪口を探したが見当たらず、そもそも酒の匂いも皆無なので、おかしな酔い方をしている可能性は捨てた。

「忍びの変化か?」

ここに信之がいれば本物かどうか一瞬で見分けようものである。
左近はそこまでの執着と偏愛、もとい観察眼を持っていないため、幸村の奇妙さの理由を見抜けずにいた。

「やはり俺は今幸村なのだな。他者から見てもそうなら、我が目の狂いではないらしい」
「・・・なんだ、いや、誰だ」
「警戒するな。俺は―――大谷吉継だ」

牢人時代の柄の悪さそのままの溜息が出かけたのを押さえこめた己を褒めてやりたい。
左近は幸村をまじまじと見つめた。

「・・・ほぉーう。へぇー。はぁー。で?」
「三成がいたら鉄扇が飛ぶ態度だな」

言いながら幸村は脱ぎかけだった着物をずるりと腕から抜く。
上半身が完全に晒された姿にぎょっとして、思わず手が伸びていた。

「おいおいおい!」

落ちた布地を引っ張り上げて肩まできちんと覆い前をぎゅっと閉じてやる。
まるで娘子を人目から守らんとするような面倒見に、自嘲する暇も与えず僅か不満げな声が語りだす。

「どういうわけだか目が覚めたら幸村になっていた。この機会を逃す流れなどない。今のうちに余すところなく焼きつけ、確かめて仕込んでおきたい。邪魔をしないでくれ」
「あーあんた大谷殿だ間違いなく大谷殿ですよ!」

認めねば『焼き付けたい』あれやそれを左近まで一緒に見せられる羽目になりそうでやけくそ気味に叫ぶと、やれやれといった風に幸村改め吉継は首を振る。仕様の無い奴だと無言で示されて腹が立つやら頭が痛いやら。

「大谷殿の姿が幸村になった摩訶不思議の原因は一先ず置いときましょう。とにかくよこしまな行動は止めといてください。心の臓に悪いんで」

どうしても頭にちらついてしまう主君が、もうずっと喚き散らしているのだ。
幸村の裸体を間違いでも見たら貴様の目を潰す。などと真顔で言いかねず、それくらい三成は幸村に対して度の過ぎた庇護欲とやや誤った友情を抱いていた。

「何故左近が心の臓を痛めることになる。そちらの方がよこしまだ」
「いやいやいや俺が幸村をあんたみたいな目で見てるってんじゃなく、殿が!怒りの矛先は大体俺に!向けてくるんで!あんた殿に殴られたことないでしょ!」

顔に似合わぬ馬鹿力を身にしみて分からされている左近にとっては死活問題であるのに、吉継はいまいち危機感がない。
着物を押さえる左近の手を握り、ぐっと力を込めて引き剥がそうとしてきた。
普段の吉継では腕力で左近に及ぶべくもないのに、今は幸村そのものの力であるらしく、中々拮抗している。

「左近、俺は脱ぎたいのだ」
「殿の真似したってちっっっとも響きませんから。あんたも顔に似合わず欲望に忠実ですね!」

せっかく見目が麗しいのにどうしてこうも特技や行いが印象と違えるのだろう。左近は寸の間遠い目をした。
頭の中で響く主君の叫びが大きくなる。
幸村が、幸村を、左近、貴様、

「なにをしている!」

すぱんと小気味いい音で開いたのは襖で、スパァンと鋭くはたかれたのは左近の頬だ。
襖と一緒に頬に走る古傷までもが開かなかったのは幸いだった。

「吉継殿、左近殿と何をなさっておいでだったのでしょう」
「きくな幸村。お前は知らずとも良いこと・・・・吉継お前・・・吉継で良いのだな?左近に妙な気を起こされたなら早く助けを呼ばないか!危ういところだ」
「三成、・・・幸村。そうか。お前の方は今、俺の姿なのか」

三成に手を引かれおずおずと覗き込む吉継は、幼い様な純な空気を纏っており、きょとんと小首なんぞ傾げている。ようやく合点がいった。

「姿が変わったんじゃなく、あんたら入れ替わってんじゃないですかね。こいつは魂消たことだ」

鉄扇でなく平手だったおかげで回復が早かった左近が口を出すと三成はきっちり理不尽な眼光を寄越し、それから幸村の体の吉継、吉継の体の幸村を気遣わしげに交互に見やる。

「妖術か?夢か?信じられんが、確かに吉継は幸村で、幸村も吉継だ。一体どうなっている」

はたかれた痛みがまだ尾を引いているので夢ではない。と左近は一人内心で頷いていた。

「もしかしたら俺ののろ・・・まじな・・・祈りが天に通じたのやもしれないな」

はたと思い至ったかのように口にする吉継の、当たり障りがないように言い直された言葉が引っかかりすぎていたが、突拍子もないことが苦手な三成は突っ込まない。天然の幸村には期待するだけ無駄だ。
己が身を労わってやりたかったが、収集をつけられそうなのは自分だけととっくに悟っている左近であるから溜息を呑みこんで話を進める。

「出来ればききたかないんですがね、何と祈られたんです」
「幸村の躯を余すところなく知りたい」
「予想以上に潔すぎて殿の前では勘弁してください本当に」
「俺が何だと言うのだ左近」

友が大事すぎるのと当たりやすい対象がすぐ傍にいるのとで、三成の困惑がぶつけやすい苛立ちとなって左近へ飛ぶのは当然の流れであった。
誰がきいてもよこしまだと分かる言い様をされたのに幸村はきょとんとしている。

「私は身に何かを隠すそぶりを見せたでしょうか?」

忍びなんぞは衣の下にあれこれと武器やら薬やら仕込み一瞬で出してみせるが、そういった芸当に覚えがない故の疑問だ。
健全で、かつずれた解釈はこんな時でなければ平和だと笑っていられるのに、今は脱力と頭痛を招く。

「お前は潔白な武士の鑑だ、幸村。何かを隠そうとしたことなどない。安心しろ」
「三成殿・・・ありがとうございます。では、吉継殿は私の何をお知りになりたかったのですか。語るは不得手でございますれば、得心のゆく答えは出せぬやもしれませぬが、この幸村、なんでもお教え致します」
「そうか。ならばじっくりと教えてくれ、俺はお前が知りたい」
「おっとこいつは不埒だ!」

告げた中身は吉継といえど、しっとりと艶めいた幸村の声音に吃驚して耳をほんのり赤く染め固まってしまった三成に変わり、幸村を守らんと彼の義姉の魂を一瞬憑依させ左近はするりと伸びた腕をはたく。
つい先ほど味わったすぱぁんと空気を張る音が響いた。
吉継の身体の幸村、を守るために、幸村の身体の吉継、の腕をはたいた。であるからつまり痛みを負ったのは吉継でも受けた肉体は幸村の物であって、腕についた跡を見て我に帰った三成はやはり鬼の形相となった。

「貴様、幸村に傷をつけたな」
「ちょこっと赤くなっただけですよ、これくらいすぐ消えますって!おなごの顔じゃああるまいし、殿は幸村に過保護すぎまふぐぁっ!」

流石に二度目は温情はないかに思われたが、鉄扇を取り出さずに拳であっただけ、左近は主の深いところに埋もれている思い遣りを感じつつ、ほんの少しの間意識をとばした。




その後、吉継と幸村は三成に連れられ、呪術に詳しい兼続を訪ね早々にお互い元の身体に戻った。
兼続のみの力ではなく、多くは綾御前の知恵によってだったらしいが、神の領域を覗く所業を行う上杉の人間が今更ながら恐ろしい。
同じ領域に平然と片足を突っ込んでいた吉継は、恐ろしさよりも面倒臭さが上回った。

さて、幸村と吉継の入れ替わりが解決して数日の後。
三成からの鉄槌の後も消え、ひと段落ついた安堵でぐっすり眠った筈の左近の目覚めは奇妙な感覚だった。
頭が重く、風邪でも拾ったような調子の悪さを自覚するのに、身体は軽い。なんだか頼りない。己という存在そのものが減ったような心地だ。
がしがし後頭部をかくとさらりと艶やかな髪の感触が指に絡む。よく手入れされたおなごのような指通り。
違和感がはしったと同時に目をぱちりと見開けば細く白い腕が見え、そのまま両手を持ち上げぺたぺた顔を触ると、なんとも整った造作が伝わってくるではないか。
何事にも優れた予測を発揮する軍師の勘が、左近を慌てて飛び起きさせる。
顔を洗うための桶に水を張って覗き込むと、そこには予感と違わぬ顔が映っていた。

「おお、なんという美麗な俺。いや大谷殿」

どうやら、とか、おそらく、なんて仮定はもういらない。またやらかしたのだ。あの涼しげな欲望の塊は。

朝のすがすがしさを蹴散らす全速力で駆け、下手人の居室を断りなく開ければ見慣れた己の姿があり、手には用途を想像したくない縄が握られていた。

「ふむ、もう少し時がかかると思っていたが・・・俺の身体でもこれほど早く走れたのだな」
「大谷殿・・・・お、お、た、に、ど、の」
「まぁ落ち着け。茶でも飲むか」
「この状況で飲めたら肝が据わりすぎて天下とれる器ですよ」
「三成が聞いたら泣きそうな声色だな」

左近の身体の吉継は懐に薬と見られる畳紙を仕舞い、縄を小さく縛ってまとめ、てぬぐいを数枚取り出して満足したように頷く。支度を整えたようだ。
何をしようとしているかなど、問い詰めずとも明らかに明らかだった。

「ききたかないんですがね、“俺の身体”で一体なにしに?」

大事な部分なので強調して問えば、吉継はいたって真面目に、りりしい顔で答えた。

「幸村を襲いに」

左近は今度こそ、今度こそ絶対に鉄扇をくらう確信のもと、あらん限りの力をこめて吉継を羽交い絞めにした。

「左近、俺は夜這いたいのだ」
「まだ朝っぱらですが!刻限関係なく、幸村に手は出させませんから!」

己が肉体の逞しさを今ばかりは嘆く。吉継の身体では引きとめられよう筈も無い。

「俺の命を少しで良いんで思ってくれませんかね!殿に本気で殴られると、容易く黄泉が見えるんですよ!」
「それならば心配いらない。三成が俺の顔を殴れると思うか」
「結局ことが終わって元に戻ったら俺が死ぬじゃないですか!」
「お前のことは、忘れない。花でも手向けよう、幸村と共に」

しようとしていることは無理強いの力押しであるのに、きっちりと幸村を落とす気でいる吉継の自信がどこから湧いてくるものなのか、よほどの手練手管があるのか、左近は考えることをやめた。

「あんた人でなしだ!」

悲痛な叫びもどこ吹く風で吉継は障子に手をかける。
行かせまいと必死でしがみ付き踏ん張る左近の耳に、異変を察知し駆けつけたのだろう。
宥めようとする幸村の声と、耐えきれぬと鉄扇を鳴らす、地獄の死者の足音が届いていた。

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